港湾労災防止協会に奉職したのは16年前の4月のことであった。当初は安全衛生についての知識も何もなく港湾労災防止協会の組織があることさえ知らなかった。後になり巡り巡っての出来事であったと知ることになるが、周りは60歳を過ぎた先輩諸氏ばかりでかなりの場違いの感じを持ったのを覚えている。長い間勤めるのであれば資格を取ることを港湾労災防止協会本部から進められた。平成20年に労働安全コンサルタント、平成22年に社会保険労務士の資格を取ることが出来た。
長い間安全衛生の職務をしていく中で感じるものも多くなった。労働基準監督署の監督官と一緒の仕事も多くなった。その中で一番最初に問題に挙げられたのは「船倉内で墜転落の危険があるときに親綱を張って安全帯を掛けなさい」と指導されたことであった。当初は監督署が指導するので、あまり深く考えることもなく監督署寄りのスタンスであった。事業所の方から出来ないことの押しつけであり納得できない、不可能であるという見解が出ていた。無理に親綱を張った事業所もあった。年月を重ねる中、安全衛生について問題点を感じるようになった。監督署の監督官の中から理解をしてくれる人も出てきたが、監督署の忙しさもあり個々の事案について深く追求できる余裕はなく、どうしても墜転落災害については環境がどうあれ親綱・安全帯とステレオタイプに考え決着させてしまう。これは事業所からも同じことが言える。安全管理を行うときには一律に管理してしまう方が管理がしやすい。たとえばマニュアルであるが災害が起きると必ず「マニュアルは」ということが言われるが、1年に一回しかない作業にマニュアルなど必要だろうか?現場はそんなものいちいち覚えていて作業などしているわけでない。しかし、会社のトップは「なぜ作らないのか」「なぜ守らないのか」と責めるのである。上司はマニュアルを作らせたことで「やらした感」いっぱいで満足し、部下は「やらされ感」いっぱいで苦悩するのである。やはり一度立ち止まって考えた方がよいようだ。